春のメンタル不調

ココロ 2023/05/30 912 views

異動や転勤、進学など環境が大きく変化することから春は心が不安定になりがち。心の健康を保つために自分でできる対策について、『こころとからだ つながるクリニック』の平山雄也先生にお話を伺いました。

春に起こるメンタル不調について

平山先生によると、環境が変わることでメンタル不調を引き起こす方も多いと言います。「春になると、『眠れない』、『やる気が出ない』、『食欲が出ない』という症状で相談に来る方もいらっしゃいます。春に限らず通年ある症状ですが、特徴的なのは不調が起こるタイミング。4月は気を張ってなんとか乗り越えたけれど、GWで休みを挟むと会社に行けなくなるという相談をよく受けますね」。

環境の変化で起こるメンタルの不調を考える上で大切にしたいのが、「リソース」という言葉。英語で「資源」という意味のこの言葉は、心理学では「自分を助けてくれるもの」を指します。「3月、4月頃は、転勤や進学などで引っ越したり、お世話になった方が退職したりと、今までの繋がりに変化が起こります。すると自分の心の拠り所だった『リソース』が1個失われてバランスを崩してしまうわけです。その影響で、自律神経やホルモンが乱れて、心身を興奮させる交感神経が刺激されて眠れないといった症状が起こり、眠れないことで自律神経やホルモンが乱れるという悪循環に陥ってしまうこともあります」。

3つのセルフケアで心のバランスを保とう

では、メンタルを安定させるためにはどんなケアをするといいのでしょうか。ポイントを3つご紹介します。

POINT1 「リソース」の棚卸し
心の調子が良くないときは不安を回避することが第一優先になるので、ネガティブに考えがち。自分を守るために『ああなったらどうしよう』と考えて、余計にメンタル不調に陥ってしまいます。気持ちが落ち込んだときに、今までどういうふうに乗り越えてきたのか、何に助けてもらったのか、誰に悩みを聞いてもらったのか、何に打ち込んでいたのかなど、自分を助けてくれた要素を書き出してリスト化しておきましょう。「あのスポーツチームを応援するのが楽しい」、「このファッションが好き」といった自分の趣味から考えてみたり、「あのカフェでパフェを食べる」「家に帰ってビールを飲むのが至福」など日常の小さな楽しみから見つけるのもOKです。

「『想像しただけでいい気持ちにも悪い気持ちにもなる』というのが人間の特長です。自分の好きなもの、安心するものなどを書き出して、リソースのリストを作ること自体が人を元気にしてくれるんです」。平山先生によると、メンタル不調になると視野が狭くなり、リソースを思い出す余裕が無くなってしまうのだと言います。リストを作っておいて見える化すると、心の調子が悪いな…というときに自分を助けてくれるものを思い出せるようになります。

POINT2 自分を「モニタリング」する
落ち込んだり元気が無くなったりしたとき、自分にどんな症状が出てくるのかを知っておきましょう。心のバランスが崩れたときに起こる症状として、めまい、お腹を下す、吐き気、喉が詰まる感じ、動悸、頭痛、やる気が出ない、朝起きにくくなる、部屋が散らかる、色んなことが面倒臭く感じるなど、人によってパターンは異なります。

「症状というのは身体のSOS。これ以上無理をするともっと悪くなってしまうよという、私たちを守ってくれるガードレールなんです。症状は小さいうちから『教えてくれる』のですが、無視することでどんどん大きくなって、鬱やパニック障害に繋がることもあります。身体と対話して重くなる前に気づいて、ちゃんと休めば早めに治まります。『眠れない』状態になってくると、さらに心に不調をきたしてしまうので、そうなる前に対処しておきたいですね」。

また、なかには症状を感じにくく、気づいたときには鬱などの病気になってしまう人もいます。そのような事態を防ぐために、日頃から体の感覚に意識を向けて、いい感覚も嫌な感覚も感じ取る習慣をつけることが大切。オススメは、今この瞬間のからだを意識する「ボディスキャン瞑想」です。まずは仰向けになり軽く目を閉じ、リラックスしてゆっくりと呼吸を行います。続いて、「頭、肩、胸…」というようにからだの部位一つひとつに意識を向けていきます。最後にからだ全体を感じながら自然に呼吸をします。ボディスキャン瞑想を行うと、普段は気づかなかった筋肉のこわばりやコリ、からだの痛みなどに気づくことができるようになります。YouTubeなどにある誘導の音声を聞きながら行うと取り組みやすいので、自分に合う長さの動画や心地いいと感じる声のものを見つけてトライしてみましょう。

POINT3 リラックスさせるポーズを実践
続いて、身体をリラックスさせるために簡単にできるポーズを2つ教えてもらいました。

自然と呼吸が深くなるポーズ 
メンタル不調の人は呼吸が浅くなりがちなので、自分がどんな呼吸をしているかを意識してみましょう。ただ、「深呼吸しなきゃ」と意識しすぎると力んでしまい、しっかり息を吸うことができません。そこで行いたいのが写真のように、身体を抱くようにして肋骨のあたりを触るポーズ。肺を守っている肋骨の部分を触ることで、身体が肺の位置を認識して、意識しなくても自然と呼吸が深くなります。

目を休める「パーミング」
楽な姿勢にして、手のひらを擦り合わせて温かくした後、お椀の形にしてできるだけ光が入らないように両目を覆います。パソコンやスマホの使いすぎで視覚からの刺激が多すぎると、自律神経が乱れてしまいやすくなります。時々パーミングをして目を休めましょう。この時、時間を忘れられるともっとリラックスできます。難しい方は1分間だけ休憩しようと決めて、休む時間をタイマーに委ねてもOK。疲れたときに行うのもいいですし、1時間に1回のペースでやると決めるなど、自分がやりやすい方法で行ってみてください。

自分の内なる声を聞いてみよう

「鬱の方から『運動したほうがいいんですよね?』と相談を受けることもありますが、僕は『運動はしてもしなくてもいいですよ』と答えます。「栄養バランスを意識した食事をする」、「休日は予定を詰め込みすぎずしっかり休息を取る」など、心の調子を整える方法はよく聞くと思いますが、本当に大切なのは『自分が心地良いかどうか』と『今の自分にちょうどいいかどうか』。リフレッシュになるからと運動を頑張りすぎると余計に苦しいし、食事に関しても、栄養の面から見ると手料理のほうが良くても、作る段階で疲れてしまっては元も子もありません。何を食べたいか、誰と食べたいかという気持ちのほうが100倍も重要なんです。休日に関しては、家でゆっくりするよりも外出して遊びたいという方もいます。外で得た知識よりも自分のこころやからだの声に従うようにしてみてください」。

では、自分が〇〇をしたいという声さえ分からない方はどうしたらいいのでしょうか。その場合は、「『嫌なことを避ける』ことから始めてみてください」と平山先生。「物事には、プラスを増やす方法と、マイナスを減らす方法があります。まずはマイナスを減らしてみると、少しずつプラスが見えてきます。人がどう思うかなということ、お金は大丈夫かな、時間は大丈夫かなという外側にある「思考」の部分に合わせることで内の声は聞こえづらくなってしまいます。『思いは重い』と言うように、私達は時間やお金、人の目など理性的な面を重要視しすぎて、自分の心の声を無視してしまいがちです。もちろん、外側の「思考」の部分も大切なので、それを全部捨ててしまっては社会生活ができません。でも大事なのは、外と内のバランス。例えば、ランチに500円までしか出せないけど、本当に食べたいのは〇〇だなとか、自分の素直な気持ちを知っておくだけでもいいんです」。

環境がガラッと代わり心身ともに調子を崩しがちな春だからこそ、自分と向き合って、健やかに過ごせるようにしたいですね。

平山雄也先生
「こころとからだつながるクリニック」の院長。20代の頃に社交不安症を発症した経験を活かし、対話や心理療法、漢方、身体技法等に基づいた、患者一人ひとりに寄り添った治療を提案。日々、その人が本来持つ力を引き出すサポートをしている。
https://cocorokarada-cl.com/

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